両立支援シンポジウム/セミナー
佐賀 治療と仕事の両立支援セミナー
- <開催日時>
-
2019年12月11日(水)
13:30 - 16:20 - <場所>
- ホテルグランデはがくれ
- <主催>
- 厚生労働省
- <共催>
- 佐賀労働局
佐賀労働局局長 菊池泰文
両立支援の実際を寸劇でわかりやすく説明
北里大学 医学部公衆衛生学 講師 江口尚氏
秀桜会みどり保育園 園長 井手利光氏
昭和自動車株式会社 清水啓智氏
佐賀県医療センター 好生館 がん相談支援センター 大石美穂氏
佐賀産業保健総合支援センター 家永佐智子氏
東京大学医学部附属病院22世紀医療センター 松平浩氏
ロールプレイ
基調講演に先立ち、実際の両立支援の手続きの流れを分かりやすく説明するため、登壇者たちが即席の役者になってロールプレイを実施した。架空の会社員Aさんが健診で肝機能障害と診断された後、精密検査でがんと分かったことから物語がスタート。会社には両立支援の制度がなかったが、Aさんが人事担当者に申出を行ったことを端緒に、会社(人事担当者、社長)や主治医、医療ソーシャルワーカーと一緒に、産業保健総合支援センターの支援も得ながら、両立支援ガイドラインに沿って両立支援に取り組んでいく内容となった。江口氏は「両立支援は、事業者の協力があって始めて行われる。できる限り治療を始める前と同じように働けることを目指していくことが、仕事のやりがいの継続につながる」とポイントを整理した上で、両立支援が定着するためには、各企業が両立支援に取組、一つ一つの事例を重ねていくことが大切だと語った。
基調講演
北里大学 医学部公衆衛生学 講師 江口尚氏
江口氏は「両立支援は、本人の意向、意思決定を尊重することが大前提である」とした上で、事業場で取り組む際のポイントを整理。事例発生以前では、病気の早期発見・予防のための啓発指導、相談できる職場の雰囲気づくりや、社内ルール・体制づくりとその周知が重要であり、事例発生の際は、主治医との適切な情報共有、外部支援機関の活用、職場関係者への適切な配慮事項共有や研修が必要であると説明。個別の対応を考える際は何よりも「対話」が欠かせず、対話によるリスク情報の共有により、安全配慮義務と症状等に合わせた対応とを関係者間で検討していく必要があると説明。両立支援は事業者の協力なしに進めることはできないが、誰もが働きやすい職場をつくっていくことは、助け合いの職場風土づくりにもつながり、長期的には組織の強みになるとし、みなさんの事業場でもできることから始めて取り組んで欲しいと締めくくった。
各企業・医療機関の取組
みどり保育園 園長 井手利光氏
社会福祉法人秀桜会が運営する認可保育園である同園は、月曜から土曜の6日間の開園が必須で、一般的に職員が休みにくい環境下にあるという。しかし同園では10年前から、職員の数を増やしたり、日曜・祝日以外の所定休日を職員本人が自由に選択できるようにするなどして有給取得率向上の取組を実施。その結果、自己管理が徹底され、職員が病気にかかりにくくなり、当日欠勤の減少、職員が元気であるとの保護者の評価による園児数の増加、園児のけがの減少(労働効率の向上)などにもつながっているという。同園では糖尿病で入院を余儀なくされた職員がいたことをきっかけに両立支援に取り組んでいるが、有給休暇と所定休日を連続して取得できる柔軟な制度があることから、現在まで無理なく通院治療と仕事を両立できている。今後は週4日勤務の正社員制度の導入を検討しており、さらに両立支援を進めていきたいと抱負を語った。
昭和自動車株式会社 清水啓智氏
路線バス・貸切バスの運行会社である同社では、2018年から治療と仕事の両立支援に本格的に取り組んでおり、ある事例を紹介。嘱託管理職であった60代男性社員は、体調に異変を感じ病院を受診したところ大腸がんと診断。根治は難しいながらも抗がん剤治療を受けながら、本人の「後継者に責任を持って引き継ぎたい」という意思を最期まで最大限に尊重した両立支援を実施。後継者として2名を増員、本人に対しては、週2日間程度の治療日休暇や就業時間短縮等の施策で配慮を行い、就業中は急な体調の変化に備え、複数のスタッフでサポートを行った。清水氏は、同事例を通じて、「病気になった方を取り巻く環境はさまざまで、一律の制度では対応困難であった。両立支援の成立には病気や治療のことだけではなく、家族・職場の状況、仕事内容など総合的に考えていく必要がある」と実感を述べた。
佐賀県医療センター 好生館 がん相談支援センター 大石美穂氏
同院の「がん相談支援センター」では、がん患者やその家族の相談のみならず、企業からの相談にも対応しており、対応の実例も踏まえながら同院での両立支援の取組が紹介された。ある企業からは「がん患者とどのように接すればよいのか」「どのような支援ができるのか」といった相談が寄せられ、同院からは、がんの症状や治療における一般的な注意点を伝えることや、患者の同意があれば、主治医から患者へ伝えられた配慮事項を職場に伝えることもできると説明。また、企業・患者本人、産業保健総合支援センターの専門職等も同席のうえ、より具体的な話し合いを持つことも可能だという。最後に大石氏は来場者に向け「がんのことで悩んだら、ぜひがん相談支援センターを活用して欲しい」と呼び掛けた。
佐賀産業保健総合支援センター 家永佐智子氏
同センターでは両立支援に関して「人事労務担当者、産業保健スタッフ、医療関係者に対する研修・情報提供」「労働者(患者)やその家族、企業からの相談対応、企業への個別訪問」「医療機関と連携し、企業(職場)と労働者との調整・連絡」等を事業場規模にかかわらず無料で対応している。家永氏はこれまでの相談対応の経験から、「相談者の抱える問題点を、正確に把握することが不可欠であること、医療機関と企業が有効に連携するためには、企業・本人からの詳細な勤務情報提供が望まれる」と述べた他、「両立支援では一時的な就業上の配慮だけではなく、事業場内での制度づくりが欠かせない」とし、同センターでは社会保険労務士など様々な職種の両立支援促進員がいるため、両立支援で悩んだ際にはぜひセンターを活用して欲しいと呼び掛けた。
“チェックリスト30”の開発と解説書の作成」
東京大学医学部附属病院22世紀医療センター 松平浩氏
松平氏は厚生労働省が募集した両立支援の研究事業を行っており、その中で開発を進めている治療と仕事の両立支援「チェックリスト30」について説明。その項目は、会社内の風土づくりから疾病を抱える社員と主治医、産業医、人事担当、上司などとの連携、休暇などの制度整備、柔軟な働き方ができる仕組み、相談窓口(担当者)の設置、社員の健康づくりなど多岐にわたる。チェックしていくことで自社の治療と仕事の両立支援の取組の進捗を確認できるものとなっており、完成次第活用される見込みだ。
(左から)昭和自動車株式会社 清水啓智氏、みどり保育園 園長 井手利光氏、北里大学 医学部公衆衛生学 講師 江口尚氏、佐賀県医療センター 好生館 がん相談支援センター 大石美穂氏、佐賀産業保健総合支援センター 家永佐智子氏、東京大学医学部附属病院22世紀医療センター 松平浩氏