厚生労働省

治療と仕事の両立支援ナビ

両立支援の取組事例

両立支援専従の医療ソーシャルワーカーを配置し、
全疾患に対応できる体制を構築

大阪労災病院 治療就労両立支援センター

両立支援部 医療ソーシャルワーカー(MSW)
本田優子氏

会社名
大阪労災病院 治療就労両立支援センター
所在地
大阪府堺市
事業内容
両立支援の普及を目指し、併設の大阪労災病院における両立支援活動をもとに、支援方法の研究・開発を行っています。
設立
2014年4月
従業員数
11名(2022年1月現在)/ 男性2:女性8
平均年齢
53歳

2001年4月に「勤労者予防医療センター」が大阪労災病院に設置され、2014年4月には「治療就労両立支援センター」と改称し、新たに治療と就労の両立支援の取組を開始しました。相談に対するハードルを下げるべく現場での複数回の声かけを重要視。看護部との協働や複数の情報収集ツールを用いた声かけをする体制づくりを推進しています。

患者さんの仕事と治療の両立支援に取り組んだきっかけをお聞かせください。

当センターは2014年よりがん・糖尿病分野において両立支援活動を開始しました。活動拡大のきっかけは、2018年度に両立支援専従の医療ソーシャルワーカーが配置されたことにあります。医療ソーシャルワーカーとは傷病をきっかけに生じる生活の困りごとの総合相談を担う職種です。本来就労に関する相談もこの総合相談に含まれますが、当センターの目的のひとつが両立支援の普及であるため、専従の配置となりました。

貴院において、患者さんの両立支援に取り組む病院理念や基本的な考え方、方針を示したものがあればお聞かせください。

大阪労災病院は、独立行政法人労働者健康安全機構が展開する全国労災病院の一員として、働く人びとの健康を支援する「勤労者医療」を使命としています。「勤労者医療」とは、勤労者の健康と職業生活を守ることを目的として行う医療及びそれに関連する行為の総称であり、両立支援はこの枠組みにおいて実施されています。 具体的には、疾病と作業・職業環境等との関係を把握し、それらの情報をもとに、働く人々の疾病の予防、早期発見、治療、リハビリテーションを適切に行い、職場と連携して職場復帰、及び疾病と職業生活の両立を促進するものです。こうした患者さんの就労生活を意識した理念があることは、病院全体の理解を得て両立支援体制を作っていくに当たって有効でした。

院内の両立支援体制をお聞かせください。

2018年度にがん患者さんを中心にはじめた両立支援ですが、現在は全疾患に対応しています。

【仕事の困りごとのキャッチ:既存の仕組みを活用】
当院には患者さんの困りごとをキャッチするための既存のツールが複数あり、それを活用していくことにしました。まず、全体的な困りごとのキャッチとして問診票や緩和ケアスクリーニングのツールがありますが、それらに仕事の困りごとについての質問項目が追記されました。また、仕事の困りごとをキャッチする専用ツールとして、「勤労者医療調査票」(職歴等を記載)及び「勤労者看護アセスメントツール」(作業内容・環境等を記載)があり、スクリーニングの軸としました。これに加え、既存のルーティン面談の機会も活用しました。例えば、がん告知時に認定看護師が同席するシステムや、難病や透析などの医療費関連制度の手続きで医療ソーシャルワーカーと面談するシステムのことです。これらの面談機会に就労の困りごとを伺うことにしています。

【支援の中心を担う職種と役割分担(表1参照)】
当院での支援の中心を担うのは、看護師と医療ソーシャルワーカーです。まず、患者さんご自身で勤務先と調整する場合、病院はそれを側面的に支援することになりますが、その【側面的支援】については看護師が担います。そして、患者さんと勤務先と病院による【直接連携】を必要とする場合には、医療ソーシャルワーカーが担います。また、両立支援の重要なツールでもある「勤務情報提供書」や「主治医意見書」をやりとりする【文書連携】については、看護師、医療ソーシャルワーカーで協働しています。なお、支援内容の検討については、主治医、心理職、リハビリ職、事務職等も参加し、チームで実施しています。

【支援ツール(図1参照)】
実際の支援においては、側面的支援が最も多いことから、その枠組みをツール化して運用しています。それが「働き方を考えるシート」です。シートの支援上のねらいは、患者さんと一緒に埋めていくことで、患者さんが話し合いの主役になることです。そして、できあがったシートは、患者さんが自己調整するときの手元メモとしてお渡しすることです。また、体制づくりのねらいとしては、一定の側面的支援はどの職種でもできるようになることを目指しています。

【院内研修】
看護師向けには、基礎研修(支援の基本や支援ツールの使い方)・応用研修(主治医意見書の案作成のグループワーク)を毎年開催しています。2020年度からは両立支援に関する院内認定看護制度を創設し、認定取得者は各部署で支援のリーダー的存在として活動しています。また医療ソーシャルワーカー(非専従)、リハビリ職種等にも研修を開催しています。



企業や産業保健スタッフ等との連携方法についてお聞かせください。

【当院特有のネットワークの場】
当院・当センターでは、個別支援場面においては【直接連携】や【文書連携】等を実施していますが、組織レベルの取組においては、「大労クラブ」、「産業保健ネットワーク」を主催しています。大労クラブは、近隣企業の産業保健スタッフや人事労務担当の方々と当院医療職との共同の勉強会等の場であり、年2回開催しています。また、産業保健ネットワークは、企業の産業保健師の方々を中心とした会で、こちらも勉強会や交流会を年2回開催しています。こうした場での情報交換は、相互理解が促進され、現場の支援に活かされています。

【両立支援普及のための企業訪問】
コロナ禍以前は、当院の両立支援を紹介するために近隣企業へのあいさつ回りを実施していました。こうした活動から、従業員の方の傷病発生時に相談の電話をいただくなど、個別支援での連携にも繋がっています。

産業保健総合支援センターや近隣の医療機関との連携についてお聞かせください。

大阪産業保健総合支援センターについては、個別支援では、患者さんの勤務先の産業保健体制の活用方法や産業保健を促進する諸制度の利用について相談をすることがあります。また間接的ではありますが、産業医が選任されていない企業に地域産業保健センターを紹介するなど社会資源としての情報提供を企業に行っています。両立支援の普及活動においてはご依頼を受けて研修を担当することもあります。
近隣病院との連携では、患者さんが転院した場合の支援の申送りのほか、作成した支援ツールを他院と共有し、支援の質の向上を目指しています。

患者さんに院内の両立支援の取組をどのように周知されていますか?

ポスター掲示、ホームページ掲載、市民向け講座の開催等、基本的な広報を実施していますが、それらに加え、当院では現場での複数回の声かけを重要視しています。両立支援は労働者の勤務先への申出から始まるとされていますが、患者さんにとっては、医療者への遠慮から病院に対しても申し出づらさがあるだろうと考えています。相談に繋がった患者さんからは、「相談窓口を案内されても、わざわざ行かない」、「自己の責任でなんとかすべきもので誰かを頼ってはいけないと思っていた」、「何度も声かけしてくれたので、話してもいいのかなと思った」といった声が聞かれ、相談に対するハードルの高さがうかがえます。声かけをする体制づくりは、院内では少人数である医療ソーシャルワーカーだけでは難しく、看護部と協働し、前出の複数の情報収集ツールを用いながら声かけができるようにしています。

今後の展望・課題をお聞かせください。

院内の課題は、支援体制の浸透と定着化です。特に「働き方を考えるシート」は支援をはじめるよいきっかけにはなっていますが、シートを完成させることはまだ難しく、継続的な訓練および運用上の工夫が必要と考えます。同時に当センターは、両立支援の普及が使命であるため、こうした取組をもとに研修開催やツールデータの提供等を行っていきたいと考えています。

取組事例一覧