治療と仕事の両立支援コラム
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2023.3.31
働く世代が病気になった後も納得感のある
自分らしいキャリアを築くために
治療と仕事の両立支援促進プロジェクトリーダー
砂川 未夏 氏
これからどうしよう?
最近では、治療と仕事の両立に向けて、病院や行政などによる身体、お金、制度に関する相談窓口が増えています。その中で、私は、社会復帰前後の人たちの今後の働き方やキャリアについて相談に乗っています。
病気は、これまでの働き方、生き方、さらには自分の考え方や価値観をも揺るがすほどの大きな転機になる場合があります。病気がわかり、当たり前の日常が非日常となり、漠然と「これからどうしよう?」と迷うことがよくあります。私たちキャリアコンサルタントは、就職支援もさることながら、治療と仕事の両立や職場復帰において生じる「職業人としてこうあるべきだ」という自分自身の考え方と、本来大切にしている「ありたい自分」との不一致から起こる葛藤について、相談者に寄り添いながら、より現実に適合する新しい「ありたい自分」へと変革することによって転機を乗り越えていく支援をしています。どのように乗り超えたのかについて、インタビュー形式でお伝えします。
※紹介する事例は、これまで私が関わってきた相談事例をもとに再構成した創作であり、特定の人物を指すものではありません。
仕事で迷惑をかけてしまうのでは?……
「職業人としての望ましさ」に苛まれる
キャリアコンサルタント(以下、CC): Aさん、こんにちは。治療と仕事の両立において、当時どんなことに悩んでいましたか?
Aさん:今振り返ると、ただ普通に働きたいのに、働けないことがもどかしかったです。見た目は元気でも、治療で体は思うようにならず、すぐに疲れてしまって……。このまま続けられるのだろうか、と不安になりました。周囲にフォローしてもらうことも多く、みんな忙しいのに申し訳なくて……、でも無理すると体調を崩す、そんなことを繰り返していました。当時は、迷惑をかけていることが本当に申し訳なくて……、いっそのこと、会社を辞めてしまおうかと思ったくらいでした。
ここにいていいんだろうか?……
健康だった自分と病気の自分との葛藤
CC:職場に迷惑をかけることをとても気にしていたんですね。職場の対応はどうでしたか?
Aさん:職場の上司や同僚からは仕事の分担を変えてもらうなど、色々配慮してもらいました。「気にしなくていいよ、今は体を大事にしてね」と言ってもらったのですが、素直に受け取れなくて……。多忙な職場の「お荷物」になってしまっている自分が情けなかったです。以前の自分だったら、こんなはずじゃなかった!病気にさえならなければって思い、悔しかったです。だんだん自分は「ここにいていいんだろうか」って……。こんなこと誰にも相談できなくて、1人でモヤモヤしていました。
前のように働けない自分から新たな一歩へ……
働く意味のバージョンアップ
CC:そうしたなか、どのように乗り越えられたのですか?
Aさん:周囲に気を遣われたくなかったので、第三者であるキャリアカウンセラーに思い切って相談してみました。カウンセラーからの問いかけで自分を見つめ直していくと、「私はチームのまとめ役であり安心して頼ってもらう存在。弱みを見せてはいけない」っていう思いで働いていたことに気づきました。なのに周囲を不安にさせているなんて……。(間)いつの間にか殻に閉じこもっていた自分がいたことにハッとしました。病気だから迷惑をかけることはあるけど、私も同僚に対して何か支えること、支え合うことはできるんじゃないかと。
CC:Aさんが働く上で、何を求め、何を大事にしてきたのか、心の奥にある本当の思いに触れることができたんですね。
Aさん:はい、そうしたら、自然と病気で悩んでいたこと、仕事への思いなどを周囲に話していたんです。ずっと話せなかったので自分でも驚きました。それを受け入れてくれた同僚に感謝の気持ちが湧いてきました。主治医に意見書を作成していただき、その後も上司などと何度も話しあって調整し、社内制度もうまく活用することができました。今は、後に続く社員のために制度の見直しも始まっています。これからも互いに支え合う機会を増やせるように職場にかかわっていきたいです。
キャリアの考え方&ポイント
キャリアの相談は、1人ひとりの背景や事情が異なるため、それぞれ個別性があります。さらに、病気になった前後では体だけでなく環境や自分の価値観など様々な変化が伴うことが多く「人生の転機」と言えます。
そうした中、以下のポイントをまず知っておくことが大切です。
1.目の前の治療だけでなく仕事や生活など少し先の視点を持つ。
医療の進歩により、病気になっても職業人生を続けていける時代です。体調が落ち着いたら、働く上で必要なことを考えてみましょう。
2.病気という人生の転機こそ、自分の内面にも意識を向けてみる。
利用できる制度や周囲にしてほしい配慮を検討するとともに、不安や葛藤にも見つめてみましょう。「あるべき自分」と「ありたい自分」を書き出したり、話してみたりすることで客観的に整理でき、対処しやすくなります。
3.少し立ち止まって、これからの職業人生に向けて作戦を立てる。
病気とともに自分らしく働く姿を描いてみましょう。あなたは何を大切にして、誰とどんなふうに、そしてどんな支援を活用して働いていくのかを検討しましょう。
「これからどうしよう?」と思っているあなたへ
ここまで読んでみて、いかがでしたか?
もしかすると、頭で理解できても、心がついていかないこともあるかもしれません。
頭の中であれこれ考えるのではなく、言葉にすることで整理されていきます。ノートやパソコンへ書き出したり、身近に話せる人がいらっしゃるようでしたら、話してみることも1つです。
病気になった後も、あなたの人生は死を迎えるまで続きます。
あなたにとって、“働く”とはなんですか? 何を大切にしたいですか?
少しだけ立ち止まって、今そして、これからを考える場や時間を作ってみられることをお勧めいたします。あなたの中にある答えが、あなたの未来をつくり、新たなキャリアが作られていきます。
病気とはじめて向き合うと葛藤の中で納得感のある答えを見つけることが難しいこともあります。あなたは1人ではありません。国家資格キャリアコンサルタントは、就労やキャリアの専門家としてサポートしています。職場でも家族でもない、第三者の視点から伴奏し、あなたらしく働き続けられることを応援しています。あなたの大切なお話を聞かせてください。
●J C DA30分無料相談(オンライン/電話)
https://www.j-cda.jp/about/hatarakikata/counseling.php
●J C DAりぼら(リハビリボランティア)
病気による社会復帰前後のオンラインキャリア支援
https://www.j-cda.jp/ribora/
砂川 未夏
キャリアコンサルタント(国家資格)
キャリア・コンサルティング技能士2級
特定非営利活動法人 日本キャリア開発協会 治療と仕事の両立支援推進プロジェクトリーダー
キャンサー・キャリア 代表
20代、30代で2つのがんを経験し、2人の家族を看護した遺族でもある。がん治療の後、これからの働き方や生き方に数年悩み、その後、OLからキャリアカウンセラーへ転身。約15年にわたり学校や行政での就職支援、企業の人材定着のためのキャリア支援や研修に携わる。
2013年から“病気とともに自分らしく働く”ことを応援しており、当事者だけでなく、職場や医療者、キャリアコンサルタント向けの各種活動を進める。NPO法人日本キャリア開発協会の社会貢献事業においては、治療と仕事の両立支援プロジェクトを全国のキャリアカウンセラーと共に推進中である。2020-2022年度は社会復帰前後のキャリア支援事業「りぼら(リハビリボランティア)」の運営および支援を担う。