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治療と仕事の両立支援コラム

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2024.2.5 

中小企業管理職向け「なぜ社員の治療と仕事の両立が必要なのか」

キャリアコンサルティング総研株式会社代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
両立支援コーディネーター(独立行政法人労働者健康安全機構)

佐野 真子

中小企業の雇用の現状と欠員対応の難しさ

日本社会は少子高齢化の進行により、15~64歳の生産年齢人口の減少が進んでいますが、日本の99.7%の企業が中小企業であり、小規模企業が全企業数の9割弱、雇用の1/4を占めています。 ※1、※2、※3
2022年の我が国の就業者数は6,723万人、休業者数は213万人であり、就業者数に対する休業者数をみると、約3%強の就業者が休業していることになります。 ※4
中小企業では、慢性的な人手不足に加え、採用しても定着せずに社員が辞めてしまい、人員確保に課題を抱えている場合が多くあります。また、従業員規模が少なければ、必然的に従業員1人が事業に与える影響も大きくなります。社員一人が占める業務が多岐に渡り属人的だと、急な罹患や治療が必要になった場合に、社員の欠員補充や代替要員対応が間に合わない可能性も考えられるでしょう。会社の成長に繋げていくために、人材の確保と定着、従業員が健康で働き続けられる職場環境を整えることが不可欠です。

現代社会での健康リスクと管理職の病気罹患率の高さ

「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」に掲載されているアンケート調査によれば、疾病を理由として1か月以上連続して休業している従業員がいる企業の割合は、メンタルヘルスが38%、がんが21%、脳血管疾患が12%です。また、仕事を持ちながら、がんで通院している者の数は、32.5万人に上っています。
また、労働安全衛生法に基づく一般健康診断において、脳・心臓疾患につながるリスクのある血圧や血中脂質などにおける有所見率は、年々増加を続けており、平成26年は53%に上るなど、疾病のリスクを抱える労働者は増える傾向にあります。
さらに、令和2年度患者調査によると、50代の推計患者数は約87万人であり、疾病の有病率は年齢が上がるほど高くなる状況にあります。一般的な管理職を50代と想定すると、病気になるリスクが高くなる年代とも言え、自身が罹患した際のリスクを真剣に考える必要があります。※5
中小企業では、管理職が現場の担当業務も並行的に行う場合もあり、プレイングマネージャーとして1人で複数の役割を担っている場合も少なくありません。管理職の場合は特に、休職者や欠員が出ても業務内容・裁量ともにすぐに権限移譲できる人員確保が難しい状況があります。
今後は職場においても労働力の高齢化が進むことが見込まれる中で、事業場において疾病を抱えた労働者に対する治療と仕事の両立への対応が必要となる場面はさらに増えることが予想されます。

中小企業における治療と仕事の両立支援の必要性

労働者が業務によって疾病を増悪させることなく治療と仕事の両立を図るための事業者による取組は、社員の健康確保という意義とともに、企業の持続的な成長と業績向上にも直結します。継続的な人材の確保、働く人の安心感やモチベーションの向上による人材の定着・生産性の向上、健康経営の実現、多様な人材の活用による組織や事業の活性化、組織としての社会的責任の実現といったメリットがあります。
従業員一人の欠員や休みが事業に与える影響が大きい中小企業において、管理職が自身の罹患リスクも想定し、率先して両立支援の仕組みづくりに取り組む必要があります。
社員の高齢化が進む中で、治療と仕事の両立支援は、企業経営において欠かせない要素となっています。

普段から実践できる両立支援のための対応策

突発的に起こる社員の「治療と仕事の両立」に備えて、管理職は何から始めていけばいいのでしょうか。管理職には、現業の業務遂行に支障を来たさないための職場のマネジメントが求められています。最低限必要な休業ルールの把握に加え、管理職が普段からできる対応策としては以下のような内容が考えられます。

  • ① 業務の属人化を避ける

    先に述べたように、中小企業では、1人あたりが担う役割が多岐に跨っているケースが多々あります。一人の社員の欠勤が与える影響が大きいからこそ、業務内容を抱え込ませないように日常的な目配りが必要となります。突発的な社員の休みが発生した際に、業務が属人的になっていると、必要な対応が遅れてしまう場合があります。
    また、社員だけでなく、管理職自体がプレイングマネージャーとして、自分しか分からない業務内容を抱えていることもあります。業務を一人で抱えている場合には過重労働が発生しやすく、欠勤時に顧客対応に支障が出るリスクもあります。限られた人員で業務を担っているがゆえに「業務内容を把握している人が本人以外に誰もいない」ということがないように業務の属人化を避ける必要があります。

  • ② 定期的な業務棚卸しと業務分担の見直し

    次に、組織として定期的に業務内容と分担の見直しを図ることが挙げられます。稼働によって溢れる業務が出てきた場合、個人がただ必死に業務遂行を行うだけでなく、会社や組織として相互補完できるように業務内容の棚卸しと業務分担を定期的に行うことが備えになります。一時的には稼働を取られても、事業運営に関わる業務に関しては、業務マニュアルや進捗状況が見えるシステムを取り入れる場合もあります。
    なにげなくルーチンになっているものの、既にそれほど取り組む必要のない業務で稼働を逼迫している場合もあるかもしれません。コロナ禍を境に、リモートで完結できる業務も増えてきており、大手と比較すると限られたリソースの中で事業運営を行っているからこそ、今どの業務が本当に必要なのか優先順位を俯瞰的に捉える目線が管理職に問われています。各々の社員が抱える業務を可能な限り日常的に見える化し、ナレッジ共有することで、欠員・欠勤時の引継ぎや応援体制もスムーズに組むことができます。

  • ③ チームで業務を支える雰囲気づくりとコミュニケーション

    チーム全体で業務を支える環境として、職場でのコミュニケーション醸成は欠かせません。不測の事態が発生した場合に、該当社員がすぐに職場に相談できる雰囲気があるでしょうか。
    困ったときに言い出しづらい職場だと事態の把握が後手に回っていきます。「もっと早く相談してくれれば」という管理職の目線と「言える雰囲気ではなかった」という該当社員とのギャップが生まれないように、日常的な関係性として組織・チームとしての一体感、メンバー同士で協力し、お互いの業務をカバーし合える相談できる雰囲気づくりが突発的な欠員時の対応への備えになります。
    治療と仕事の両立を希望する社員が安心して働き続けられる環境を整えるために、日常的に心がけていきたい対応策です。

他社の事例を知り、管理職が率先して取り入れる

「大手企業と自社では状況が違う」という中小企業の話を多く聞いてきました。ただ、治療と仕事の両立は従業員一人の影響が事業運営に直接影響する中小企業にこそ切実な課題です。
他の同規模企業での両立支援の事例や環境作りの様子を知り、自社に取り入れることが両立支援制度導入を促進する助けになります。社員の治療と仕事の両立を支えることで、企業の競争力向上や社員の満足度向上に繋がり、長期的な視点で企業の成長につなげることができるのです。

プロフィール

佐野 真子

キャリアコンサルティング総研株式会社代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
両立支援コーディネーター(独立行政法人労働者健康安全機構)

企業のセルフキャリアドック制度導入、従業員キャリア面談、両立支援に携わり、約3000名以上の支援を実施。現在は就職氷河期世代支援や介護・治療と仕事の両立支援に力を入れている。企業領域で新人採用からシニア層セカンドキャリア支援まで幅広く活躍。 キャリコンバンク®事業では、企業顧問及び社外相談窓口を通じて、AI時代の働き方についても企業の事業創造とキャリア形成を支援している。
著書「現代版キャリア革命:昭和世代のための頑張りすぎない生き方を手に入れる方法」