治療と仕事の両立支援コラム
こちらのページでは記事形式で
コラムをご覧いただけます。
2024.2.5
中小企業管理職向け
「いざ社員から治療と仕事の両立について相談を受けたら」
国家資格キャリアコンサルタント
両立支援コーディネーター(独立行政法人労働者健康安全機構)
佐野 真子 氏
管理職に問われる治療と仕事の両立に向けた環境づくり
突発的に発生する社員の「治療と仕事の両立」に備えて、管理職は何を想定しておけばいいでしょうか。
そもそも、中小企業において、治療と仕事の両立ルールを定めていないケースの方が多いことが想定されます。統計調査によれば、病気休暇制度がある会社の割合は22.7%となっています。※1
育児や介護の場合と異なり、治療や通院のための「病気休暇」は会社が自主的に設ける法定外の休暇であり、必ずしも会社で制度整備されているとは限りません。休暇の取得条件や取得中の処遇も会社ごとに異なります。病気や治療で休む場合のルールをきちんと制度化し、病気になったらどの程度休みが取れるのか、その間は有給なのか無給なのか等を決めておく必要があります。
管理職は現状の自社のルールがどのように決められているのか、まず把握しておきましょう。もし、ルールとして決まっていなければ、会社としてどのように規定するのか仕組みづくりから率先して取り組む役割を担っています。
日頃から会社のルールに則り、復職支援することを周知しておく
仮に休業した際には、休業後に復職支援することを日頃から社員に周知しておくことが大事です。ルールが不明確だと、従業員は「休めない」と思って症状を隠してしまう場合があります。その結果、症状悪化などによる突然の退職や休職、無理をした結果の事故やトラブルにつながります。さらに、休む場合には診断書等どのような書類の提出が必要なのか、どのような場合に退職になるのかなどが不明確だと、労使トラブルにもなりかねません。
ルールがあっても、従業員が知らなければ意味がなく、「もしルールを知っていたら、もっと早く上司に相談できたのに」というケースもあります。治療しながら働ける両立支援の規定がされているのであれば、休職や復職のルールについて、管理職から知らせることができます。会社として病気の治療と仕事の両立をルールに則り支援することを従業員に周知徹底しておきましょう。
社員から相談された時に管理職が留意すべきこと
病気の治療が必要になった際、社員がすぐに相談できる窓口はあるでしょうか。もし決まった相談窓口がなければ、直属の管理職が最初の相談窓口の役割を担うことになります。
病気と仕事の両立に関する問題は、デリケートかつ非常にプライベートな内容を伴う相談のため、しばしば心理的な負担を伴います。組織としての業務遂行も大事ですが、該当社員がストレスや不安を抱えている場合には、まず心理的なサポートを提供することが重要です。職場に言いづらい内容に加えて、業務上の方策ばかりで親身になってくれないと該当社員が感じた場合、必要な相談を行わなくなる可能性があります。最初に打ち明ける職場の相談窓口として、管理職からの該当社員の心情に寄り添った親身な対応が重要です。
また、管理職側も全て一人で対応しなければいけないわけではありません。会社側の人事や総務、治療に関しては主治医やメンタルヘルスの専門家と連携し、社員の心身の健康を支える姿勢であると伝えましょう。
ただし、病気の内容を職場の同僚や取引先にオープンになることを社員本人が望まない場合があります。社内外の連携は必要なものの、該当社員の希望を尊重し、疾病内容や個人情報の取り扱いには注意が必要です。
疾病内容によって異なる治療と仕事の両立について
治療と仕事の両立に関しては、疾病内容によっても違いがあり個々の対応が必要となります。「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」では、治療が必要な疾病を抱える労働者が、業務によって疾病を増悪させることなどがないよう、事業場において適切な就業上の措置を行いつつ、治療に対する配慮が行われるようにするため、関係者の役割、事業場における環境整備、個別の労働者への支援の進め方を含めた、事業場における取組をまとめています。
休業期間一つとっても、ある程度リハビリ期間の目安がたてやすいとされる脳梗塞と、症状の変化が周囲からは分かりづらいメンタルヘルス不調では見通しも大きく異なります。主治医の診断書で業務軽減など、一定の配慮があれば復職可能とされている場合、本人の希望を尊重するだけでなく、職場でどこまでの配慮をすべきか考えていく必要があります。就業上の措置や配慮事項は様々であり、個々のケースに応じて話し合いの中で決めていくしかありません。
治療と仕事を両立するための制度活用と働き方について
治療後の経過によっては、時短勤務などへの切り替えで正社員からパートタイマーへ転換せざるを得ないことも想定されます。業務内容によって、短時間勤務制度や在宅勤務(テレワーク)といった柔軟な働き方をうまく活用し、心身への負担を軽減しながら仕事との両立を図れるよう調整することで、該当社員をケア・サポートしていく役割が管理職には求められます。
復職後にどのような働き方が望ましいのかは、休職前、復職後の従業員との面談によって決定しましょう。普段からコミュニケーションがとれていれば面談もスムーズに進みますが、休職中に連絡をとっていないような場合は、制度があってもきちんと機能しないこともあり、日頃からの関係性がやはり大切になります。
相互理解と組織風土の醸成について
治療と仕事を両立する該当社員のフォローに目が向きがちですが、管理職には該当社員以外の社員への心配りまで求められます。休業した社員の業務は誰かが担わねばならず、稼働のしわ寄せにより職場がギスギスした雰囲気に陥ることも少なくありません。日頃から業務が属人化しないように業務分担を見直し続けるとともに、一時的に発生した業務フォローのため業務引継ぎや相互フォローの指揮を執り、該当社員以外の周囲の社員の理解と納得感を得られるよう努める必要があります。
最終的には、社員の治療と仕事の両立を実現するために、組織文化の変革が必要です。病気は誰でもなりうるものであり、高齢化と罹患リスクが高まっている時代には、病気が発覚しても治療しながら就労することが貴重な人材確保にも繋がります。組織全体での理解と共感を得つつ、治療と仕事の両立を支える組織風土を築き上げましょう。
参考リンク
佐野 真子
キャリアコンサルティング総研株式会社代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
両立支援コーディネーター(独立行政法人労働者健康安全機構)
企業のセルフキャリアドック制度導入、従業員キャリア面談、両立支援に携わり、約3000名以上の支援を実施。現在は就職氷河期世代支援や介護・治療と仕事の両立支援に力を入れている。企業領域で新人採用からシニア層セカンドキャリア支援まで幅広く活躍。
キャリコンバンク®事業では、企業顧問及び社外相談窓口を通じて、AI時代の働き方についても企業の事業創造とキャリア形成を支援している。
著書「現代版キャリア革命:昭和世代のための頑張りすぎない生き方を手に入れる方法」